2017年1月29日日曜日

【小説】浪花相場師伝 第十六話 淀屋の一族(後編)

第十六話 淀屋の一族(後編)

アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとした暴落。
後に、「リーマンショック」と呼ばれる暴落相場だった。
淀屋はリーマン・ブラザーズの破綻後に、全株を売却した。
すかさず信用取引を使い、国内の大型株中心に売りを入れた。

同じ頃、淀屋と同じ動きをした相場師がいた。
大阪の難波を拠点にしている女相場師、難波の女帝だった。
難波の女帝は全株を売却、国内の大型株中心に売りを入れた。
「ああ、おもろ、これでまた大儲けや」、難波の女帝はほくそ笑んだ。

難波の女帝は、淀屋二代目本家だった。
初代本家が江戸幕府に財産を没収された後、二代目本家が再興を果たした。
幕末になると、二代目本家は討幕運動に積極的に加担する。
その後、ほとんどの財産を自ら朝廷に献上して、二代目本家は表舞台から姿を消した。

二代目本家の血を受け継いでいた難波の女帝は不敵な笑みを浮かべた。
所詮、国なんか当てにならへん、取れるところから取ったろういう考えや。
今回、相場が暴落しても、国は何にもできへんはずや。
ホンマぬるい国やわ、駄菓子屋のように潰したろかしら。

彼女にはトラウマともいえる出来事があった。
幼少の頃、彼女は両親から小遣いを与えられた。
駄菓子屋へお菓子を買いにいくのが、彼女の楽しみだった。
ところがその日に限って、欲しいお菓子を買うには金が足りなかった。

「おばちゃん、これちょうだい」、幼少の難波の女帝がお菓子を指差す。
「ああ、このお菓子なら50円や」、店主の女性がいう。
「はい、お金」、幼少の難波の女帝が10円玉を渡そうとする。
「これだけしかないんか、全然、足りへんやないか」、店主の女性がいう。

「お金やで、売ってえな」、幼少の難波の女帝がいう。
「ウチが年取ってるからって、バカにしてんのか」、店主の女性がいう。
「ウチ、このお菓子食べたいんや」、幼少の難波の女帝がいう。
「足りへんもんは足りへんのや、とっとと帰れ」、店主の女性が怒鳴った。

「な、なんで、怒るの、ウチこのお菓子が欲しいだけやんか」、幼少の難波の女帝がいう。
「ええから、とっとと帰れ、貧乏人が」、店主の女性が怒鳴った。
駄菓子屋からの帰り道、幼少の難波の女帝はこんな駄菓子屋いらんと思った。
十数年後のバブル相場、難波の女帝は儲けた金で地上げ屋を使い、駄菓子屋を潰した。