2017年1月10日火曜日

【小説】浪花相場師伝 第ニ話 運命の子(後編)

第ニ話 運命の子(後編)

大阪のある産婦人医院で男の子が産まれてから、20年後。
ある大学の構内で、2人の男子学生が会話を交わしていた。
「今月は配当があったさかい、こんだけ増えたで」
ハンサムな学生がいい、数十枚の一万円札を裸のままメガネの男子学生に渡した。

「ワテの手数料は10%やさかい、これだけ貰うわ」
ハンサムな学生はいい、友人の手から数枚の一万円札を抜き取った。
「いや、噂には聞いとったけどスゴイな。
預かった金を必ず増やす男がおる、ホンマやったんやな」、メガネの男子学生がいう。

「まだまだ増やしたるから、安心して任せてや」、ハンサムな学生が自信満々でいう。
「いったい、どうやって増やしてるんや、教えてくれへんか」、メガネの男子学生がいう。
「それだけは教えられへん、企業秘密やさかいな」、ハンサムな学生は立ち去った。
残された医学部のメガネの男子学生は、狐につままれたような顔で立ち尽くしていた。

ハンサムな学生は正門を出ると。大学近くの喫茶店に入った。
アイスコーヒーを頼むと、関数電卓を使い手数料の計算を始めた。
ハンサムな学生は、同じ大学の学生たちの金を預かり、株で運用していた。
運用している金は、医学部を中心とした親が金持ちの学生たちから預かった金だった。

ハンサムな学生の家は、木造の古いアパートだった。
休日にいつもスタジャンを着ている父親は、建設会社の作業員だった。
茶髪の母親はスナックで働いていて、深夜に酔って帰宅することが多かった。
平日の夜は、母親の用意してくれた夕食を父親と2人で食べることが多かった。

だがハンサムな学生は、自分を不幸だと思ったことはなかった。
休みになると、両親は自分をいろいろなところへ連れて行ってくれた。
小学生の頃には、大阪府内の行楽地は全て制覇していた。
中学生の頃には、関西一円の行楽地は全て制覇していた。

ハンサムな学生には、忘れられない思い出があった。
難関だとされる大学の合格が決まった週の休日。
両親が大阪のビジネス街へ連れて行ってくれた。
その日、ハンサムな学生は梅田から淀屋橋まで、両親と散策した。

「賑やかなのは梅田や、そやけど儲けているのは淀屋橋や」、スタジャンの父親がいう。
淀屋橋に近づくにつれ、変わっていく街並みをハンサムな学生は興味深く見ていた。
「さあ、こっちやで、本日のメインイベントや」、茶髪の母親が先を急ぐ。
その日のメインイベントは、川のほとりにある石碑の見学だった。