2017年1月15日日曜日

【小説】浪花相場師伝 第七話 出生の秘密(前編)

第七話 出生の秘密(前編)

「どういうこと、ホンマに借金がなくなるんか」、スタジャンの男がいう。
「今月中にある男の子が産まれる、貴様らはその子を育てろ」、男がいう。
「その子には親がおるんやろ、産みの親が育てるのが普通やんか」
スタジャンの男がいう。

「確かに貴様がいうのは正論だ、だが、それは一般家庭の話だ。
貴様が育てるのは、ある一族の当主となる子どもだ。
その子は、現在の当主の遺伝子と最適な遺伝子を持つ女との間にできた。
最適な遺伝子を持つ女は、人工授精で当主となる子どもを孕んだ。

現在の当主と、当主の子どもを孕んだ女に面識はない。
この先も、2人が顔を合わせることはないだろう。
子どもを出産した時点で、女の役目は終わりだ。
出産してから、庶民の家庭環境で育てるのが貴様らの役目だ」、男がいう。

「その子は18歳になったら、どうなりますの」、スタジャンの男がいう。
「おそらく、次の担当へ引き継がれることになるだろう。
心配するな、貴様の借金は今日中になかったことにしてやる。
貴様の大切なあいつのため、死ぬ気になって生きろ」、男はいい立ち去った。

18年後、高級シティホテルのスイートルーム。
よく切れるナイフを思わせる男は、スイートルームのドアを開けた。
身支度を終えたジーンズの息子は、椅子に座って、ベッドを見ていた。
しかも、椅子の肘掛にひじをついた手をあごの下で組んでいた。

「何をしている」、よく切れるナイフを思わせる男が問う。
「同じことしたら、オッサンの気持ちがわかるかなと思て」、ジーンズの息子がいう。
「それで、わかったのか」、よく切れるナイフを思わせる男が問う。
「あかんわ、さっぱりわからへん」、ジーンズの息子がいう。

「君の本当の姓は淀屋、私は実王寺だ」、よく切れるナイフを思わせる男がいう。
「実王寺さん、聞きたいことが山ほどあるんや」、ジーンズの息子がいう。
「いいだろう、知っていることは全部、教えてやろう、聞くがいい」
実王寺は手近の椅子を引き寄せると座った。

「本当の父親は誰なんや」、淀屋が聞く。
「君の父親は、淀屋初代本家12代目当主だ」、実王寺が答える。
「じゃあ、本当の母親は当主の奥さんなんか」、淀屋が聞く。
「違う、奥さんではない、12代目当主と最適な遺伝子を持つ女性だ」、実王寺が答える。