2017年2月25日土曜日

【小説】浪花相場師伝 第二十話 金融のプロ(後編)

第二十話 金融のプロ(後編)

地方銀行勤務の男の目に変わった求人広告が目に止まった。
新聞折込の求人チラシの片隅にその求人はあった。
給与は年棒制で、今と同じ年収を維持できる。
年齢不問、土日祝日は休み、交通費全額支給。

だが職種が問題だった。
募集している職種は、取締役社長だった。
投資コンサルタント会社の取締役社長の求人。
投資コンサルタント会社は聞いたこともない会社だった。

ネットでその会社を検索したが、有益な情報は得られなかった。
一度、面接を受けて、やばそうな会社だったら断ればいい。
男は履歴書をしたためると、投資コンサルタント会社へ郵送した。
数日後、帰宅すると、面接日時を知らせる封筒が届いていた。

面接日に有給休暇をとった男は、投資コンサルタント会社へ向かった。
雑居ビルの1室にその会社「YLコンサルタント」はあった。
時間通りにドアをノックすると「入ってや」と声がした。
ドアを開けた男は驚きのあまり、立ち止まった。

20人は仕事ができるスペースには、机が1台あるだけだった。
スタジャンを着た若い男が椅子に座って、ノートPCを見ていた。
「よく、きてくれはりました」、若い男が立ち上がっていう。
「あの、社員はあなただけなんですか」、地方銀行勤務の男が聞く。

「今はな、さて早速、テストさせてもらうで」
若い男がいい、地方銀行勤務の男を椅子に座るよう促した。
ノートPCには、会社の損益計算書らしきものが映し出されていた。
「その会社の問題点を答えてくれるか」、若い男がいう。

しばらくノートPCの画面を見てから、地方銀行勤務の男が口を開いた。
「問題点どころか、このような会社は存在しません。
売上高に対して、売上原価が少なすぎる。
売上原価が1%に満たない会社なんてある訳がない」

「合格や、いつから来れる」、若い男がいう。
「えっ、これで合格なんですか」、地方銀行勤務の男がいう。
「その会社、YLコンサルタントの存在を疑った奴は初めてや。
目に見えるものを疑う奴が欲しかったんや」、淀屋が不敵な笑みを浮かべていう。

2017年2月23日木曜日

【小説】浪花相場師伝 第十九話 金融のプロ(前編)

第十九話 金融のプロ(前編)

その男は長年、地方銀行で中小企業への融資審査を行なってきた。
財務諸表すら作っていない中小企業も数多くあった。
融資さえ受けられれば、何とかなると思っている。
融資を申し込む時点で貴様らは終わっている、男は思っていた。

なぜ、融資を受けてまで商売を続けようとするのか。
融資を受けるということは、開業資金が不足していたということだ。
確かに、融資を受けて業績を伸ばす経営者はいる。
だが確率にすれば数パーセントにも満たない。

ある日のこと、男の勤める地方銀行で早期退職の募集があった。
このまま定年まで勤め上げるよりは、多い退職金が貰えるらしかった。
確かに退職金の額は早期退職の方が多いかもしれない。
だが会社員は目に見えない様々な面で、自営業より有利だ。

厚生年金と国民年金の違いは大きい。
厚生年金は会社が、自己負担分と同額を払い込んでくれる。
交通費は支給されるので、持ち出しはない。
決まった時間に会社にいるだけで、安定した収入を得ることができる。

男が定年になるのは数年先だった。
定年を迎えても、契約社員として雇用を継続してもらう方法もある。
だが契約社員になれば、今の年収より大幅にダウンする。
幸い住宅ローンの返済は終えており、ある程度の蓄えもある。

大幅に減った年収で働き続ける。
それも1つの選択肢だ、だが本当にそれでいいのか。
自分のスキルは、まだまだ若い者たちには負けない。
ならば、もっと自分を有効活用してもいいのではないか、男は思った。

結局、男は早期退職には応募しなかった。
早期退職に応じた奴は結構な人数いたらしい。
男は早期退職には応募しなかったが、独自に摸索していた。
これからの自分が歩むべき人生を。

子どもたちは既に社会人になっている。
伴侶をもらい、それぞれが幸せな家庭生活を送っている。
これからも妻との2人だけの暮らしが続くのは間違いない。
そんなある日、変わった求人広告が男の目に飛び込んできた。

2017年2月13日月曜日

【小説】浪花相場師伝 第十八話 理沙の選択(後編)

第十八話 理沙の選択(後編)

理沙は淀屋と大学近くのカフェにいた。
美男美女の2人は、周囲の視線を集めていた。
「投資コンサルタントの会社って何をする会社。
ヤバイことをする会社なの」、理沙が聞く。

「なんもヤバイことあらへん、至極、全うな会社や。
既に設立登記は終わってるから安心してや。
投資コンサルタントは顧客の資産を運用する会社や。
理沙様が合コンで払った金はいくらや」、淀屋がいう。

「20回は参加したから、そうねえ400万円くらいかしら」、理沙が答える。
「理沙様がワテの合コンに参加したのは25回や。
1回の参加費20万円、内10万円を株で運用していたんや。
理沙様の場合、25回かける10万円、計250万円の運用や」淀屋がいう。

「運用した結果はどうだったの」、理沙がいう。
「これや、見るがええ」、淀屋が手帳を開いて見せる。
手帳を見た理沙は言葉を失った。
手帳には、高級住宅地の芦屋で新築が買える金額が記されていた。

「ほとんどの合コン参加者は、1年経つと増やした金を受け取った。
ところが受け取らんかったのは、理沙様だけや。
受けとらへんので、こんなに増えてしもうたがな。
この金をもっと増やすために会社を作ったんや」、淀屋がいう。

「このお金を増やすだけだったら、会社を作る必要はないんじゃないの。
今まで通り、株とやらで運用していればよくない」、理沙がいう。
「合コン参加者は、金を預ければ増やしてもらえることを知った。
いまや金を預けてくるヤツがたくさんおる」、淀屋は手帳の別のページを見せた。

手帳の数字を見た理沙は、再び言葉を失った。
なに、この数字、本当にこれだけのお金を預かって運用しているっていうの。
「さすがに、これだけの金を運用するとなると個人では荷が重い。
新規開拓のため合コンも続けていく、それが会社設立の目的や」、淀屋がいう。

この男、面白い、理沙は思った。
「わたしが払って増やしたお金は資本金にしてくれていいわ。
ところで次は何をするのかしら」、理沙が聞く。
「金融のプロを雇うんや、凄腕のな」、淀屋が不敵な笑みを浮かべていった。

2017年2月12日日曜日

【小説】浪花相場師伝 第十七話 理沙の選択(前編)

第十七話 理沙の選択(前編)

大学を卒業する時期が近づいていた。
芦屋のお嬢様である理沙は、退屈な日々を過ごしていた。
大学を卒業したら、内定している大手企業で働く。
そこそこの男を見つけたら結婚か、つまらない人生ね。

理沙が通う大学は、お嬢様大学だった。
下校時には、親の金で買った高級車で金持ちの男たちが迎えに来る。
嬉々として高級車に乗り込む同級生たちを見て理沙は思う。
こいつらみたいなバカにはなりたくないわ。

そんなある日のことだった。
正門を出た理沙の目の前に1人の男がいた。
「理沙様、そろそろご卒業でんな、投資された資金について話にきたんや」
スタジャンを羽織った淀屋は、そういうと笑みを浮かべた。

「私は合コンの対価として参加費を支払ったのよ。
合コンに参加したけど、私に見合う男はいなかった。
何が投資された資金よ、言っていることが意味不明なんですけど」
芦屋のお嬢様である理沙はいい放った。

「理沙様には、2つの選択肢をご用意いたしました。
1つは、この淀屋を理沙様の男にすること。
もう1つは、理沙様と淀屋が共同で会社を興すことです」
淀屋は不敵な笑みを浮かべ、理沙の返答を待った。

何なのこの男、意味不明だわ。
何が私の男になるよ、思い上がるのもいい加減にしてよね。
「最初の選択は、ある訳ないじゃない。
2つ目の共同で会社を興すって、どういうこと」、理沙が聞く。

「2人で投資コンサルタント会社を興すんや。
人の金を運用して手数料をいただくんや。
上手くいけばボロ儲け、下手したら倒産やけどな」
淀屋が再び、不敵な笑みを浮かべていう。

「投資コンサルタントの会社って何をする会社。
ちゃんとわかるように説明してよね」、理沙がいう。
「ほな、近くのファッションホテルで話そか」
「バ~カ、私を落としたいなら、それなりの場所を用意しなさい」、理沙がいう。