2017年1月14日土曜日

【小説】浪花相場師伝 第六話 スタジャンの男と茶髪の女(後編)

第六話 スタジャンの男と茶髪の女(後編)

スタジャンの男が、高金利の街金から借りた借金の額は膨らみ続けた。
スタジャンの男と茶髪の女は、電気を止められたアパートの1室で息を潜めていた。
「おんどれ、借りたもんは返さんか」、「おるのはわかってんねや、出て来んかい」
貸金業規正法及び出資法の一部改正の遥か前、毎晩のように怒声が響いた。

スタジャンの男は職場に取り立ての電話が掛かってくるようになり、職を失っていた。
やがて取り立ては茶髪の女の勤めていた飲み屋にも来て、2人とも職を失った。
「ごめんな、あんた、ウチが子ども出来へんかったのが悪いんや」
真っ暗なアパートの部屋で、茶髪の女は泣きじゃくった。

ドアの外で、「このまま逃げきれると思うなよ」と声がして、ようやく静かになった。
スタジャンの男は、茶髪の女を抱く手に力を込めた。
「心配すなや、まだ何とかなる、何とかして金を調達するさかい」
だが双方の親の反対を押し切って一緒になった2人には、頼る先はなかった。

翌朝、台風の影響で大雨だった。
大雨の中、スタジャンの男は街を彷徨いつづけていた。
スタジャンの男の所持金は数十円だった。
カネ落ちてへんかな、俯きながらスタジャンの男は街を歩き続けた。

歩きつかれたスタジャンの男は、道端にへたり込んだ。
もうスッカラカンや、家賃は何ヶ月も払ってへん。
いよいよアパートも追い出されるな、そしたら夫婦でホームレスか、笑えるわ。
スタジャンの男は、肩を震わせて泣き始めた。

「何を泣いている」、男の声がした。
スタジャンの男が顔を上げると、レインコートを羽織った男がいた。
常夜灯の灯りが逆光になっていて、フードの下の男の顔はよく見えなかった。
「大の大人が泣くからには、よほどの理由があるのだろう、訳を話せ」、男がいう。

「高金利の街金に金を借りて、金が返せないんですわ」、スタジャンの男がいう。
「自分が借りたのか、なら自業自得だ」、男がいう。
「そんなことはわかってます、そ、そやけど、あいつにだけは苦労させたくないんや」
スタジャンの男は顔を覆うと、肩を震わせて泣き始めた。

「今の言葉、二言はないな」、男がいう。
「ホンマや、あいつのためやったら何でもする」、スタジャンの男がいう。
「ならば、貴様の借金は無かったことにしてやる。
そのかわり、貴様らはある子どもを18歳になるまで育てろ」、男がいう。