2017年1月27日金曜日

【小説】浪花相場師伝 第十五話 淀屋の一族(前編)

第十五話 淀屋の一族(前編)

「何、これって、利息をつけた金やん」、淀屋は思わず関西弁になっていた。
「今までわたしに見合うだけの男がいなかったのよ。
わたしに見合う男が見つからなかった代償がたった100万円、ふざけるんじゃないわよ。
1年で10倍にしか増やせないなんて、アタマ大丈夫」、理沙はいうと部屋を出て行った。

実におもろい女や、10倍のリターンに興味なしか。
世の中、いろんな奴がおるもんやな。
ホンマ、ええ勉強になるわ。
この淀屋、理沙様の価値観をひっくり返してみせましょう、淀屋は笑みを浮かべた。

淀屋は大学生活を送りながら、不定期に合コンを開催していた。
合コンで預かった金で、GCファンドの運用を続けていた。
2008年9月15日、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻した。
原因はサブプライムローン問題に端を発したアメリカのバブル崩壊だった。

投資銀行が破綻する、しかも米国の投資銀行や、これはエライことになる。
淀屋はGCファンドの保有株を全て売却した。
2008年10月9日、ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価が、9,000ドルを割った。
2008年10月10日、東京証券取引所には、売り注文が殺到することになった。

これからは売りや、売って売って売りまくったる。
淀屋は信用取引を使い、国内の大型株中心に売りを入れた。
2008年9月17日の日経平均株価終値は、12,214円だった。
同年10月28日には一時、6,000円台まで下落、26年ぶりの安値を記録した。

江戸時代、大阪に淀屋と呼ばれた豪商がいた。
淀屋は、全国の米相場の基準となる米市を設立し、米市で莫大な富を得た。
淀屋の米市で行われた米取引は、世界の先物取引の起源とされている。
やがて淀屋の財力を恐れた幕府により、淀屋は財産を没収された。

だが、あらかじめ暖簾分けをしていたことで、大阪の地での再興に成功する。
幕末になると、淀屋は討幕運動に積極的に加担する。
その後、ほとんどの財産を自ら朝廷に献上して、淀屋は表舞台から姿を消した。
大阪にある淀屋橋は、淀屋に由来していることは広く知られている。

淀屋の一族は、明治、大正、昭和の激動の時代をひっそりと生き抜いてきた。
商才により莫大な富を得た一族は、全国の土地を買い付けた。
今や、淀屋の一族は全国の主要都市に多くの土地を所有していた。
一族が所有する土地の評価額は、日本の国家予算に匹敵するともいわれている。