2017年1月21日土曜日

【小説】浪花相場師伝 第十ニ話 マネープラン(後編)

第十ニ話 マネープラン(後編)

理沙は阪神の高級住宅地、芦屋に家があるお嬢様だった。
父は会社を経営しており、母はアパレルブランドのデザイナーだった。
理沙は、上流家庭育ちの娘が通う女子大に入学した。
正直いって、大学は退屈な場所だった。

理沙にとって、大学だけではなく日常の全てが退屈だった。
何回か合コンに参加したことはあるが、魅力的な男はいなかった。
裕福そうな男がいても、自分と同じで親が裕福だからにすぎない。
自分の力で成功してやろうって男はいないのかしら、理沙は思っていた。

理沙が通う女子大近くのカフェに、カッコいい店員がいると噂になっていた。
理沙は、友達たちと何度かそのカフェを利用したことがあった。
だが、噂になるようなカッコいい店員を見た覚えはない。
そんなカッコいい店員いたかしら、たまたま気づかなかっただけかしら。

気になった理沙は、ある日、学校帰りに1人でカフェに立ち寄った。
午後早い時間だったせいか、店内は空いていた。
理沙が席に着き、メニューを眺めていると、横から声がした。
「いらっしゃいませ」、静かに水の入ったグラスを置かれた。

理沙が顔を上げると、若い男性店員が微笑んでいた。
若い男性店員は、アイドルのような整った優しそうな顔立ちをしていた。
なるほど、この店員ね、確かにいい男、今風にいうとイケメンだわ、理沙は思った。
「ご注文はお決まりでしょうか、リサ様」、男性店員がいう。

「何で、あたしの名前知ってるの」、驚いた理沙が聞く。
「友達とお見えになったとき、友達がリサと呼ばれていたからです」、男性店員がいう。
「そ、そうだったの、ホットミルクティーをお願い」、理沙がいう。
「かしこまりました」、男性店員はオーダーを厨房へ伝えに行った。

運ばれてきたホットミルクティーを飲みながら、理沙は思った。
わたしの名前を覚えているってことは、気になる存在だったってことかしら。
やがて会計をするべく、レジへ向かうと、イケメンの男性店員がいた。
会計を終えた理沙に、イケメンの男性店員が小声でいった。

「医学部の先輩連中から合コンの幹事を頼まれて困っています。
もしよかったら合コンしていただけませんか、してもいいと思ったら連絡ください」
イケメンの男性店員は、連絡先を書いたメモを理沙にそっと手渡した。
イケメンの男性店員こと淀屋は、メモを手に店を出て行く理沙を見送った。