第二十話 金融のプロ(後編)
地方銀行勤務の男の目に変わった求人広告が目に止まった。
新聞折込の求人チラシの片隅にその求人はあった。
給与は年棒制で、今と同じ年収を維持できる。
年齢不問、土日祝日は休み、交通費全額支給。
だが職種が問題だった。
募集している職種は、取締役社長だった。
投資コンサルタント会社の取締役社長の求人。
投資コンサルタント会社は聞いたこともない会社だった。
ネットでその会社を検索したが、有益な情報は得られなかった。
一度、面接を受けて、やばそうな会社だったら断ればいい。
男は履歴書をしたためると、投資コンサルタント会社へ郵送した。
数日後、帰宅すると、面接日時を知らせる封筒が届いていた。
面接日に有給休暇をとった男は、投資コンサルタント会社へ向かった。
雑居ビルの1室にその会社「YLコンサルタント」はあった。
時間通りにドアをノックすると「入ってや」と声がした。
ドアを開けた男は驚きのあまり、立ち止まった。
20人は仕事ができるスペースには、机が1台あるだけだった。
スタジャンを着た若い男が椅子に座って、ノートPCを見ていた。
「よく、きてくれはりました」、若い男が立ち上がっていう。
「あの、社員はあなただけなんですか」、地方銀行勤務の男が聞く。
「今はな、さて早速、テストさせてもらうで」
若い男がいい、地方銀行勤務の男を椅子に座るよう促した。
ノートPCには、会社の損益計算書らしきものが映し出されていた。
「その会社の問題点を答えてくれるか」、若い男がいう。
しばらくノートPCの画面を見てから、地方銀行勤務の男が口を開いた。
「問題点どころか、このような会社は存在しません。
売上高に対して、売上原価が少なすぎる。
売上原価が1%に満たない会社なんてある訳がない」
「合格や、いつから来れる」、若い男がいう。
「えっ、これで合格なんですか」、地方銀行勤務の男がいう。
「その会社、YLコンサルタントの存在を疑った奴は初めてや。
目に見えるものを疑う奴が欲しかったんや」、淀屋が不敵な笑みを浮かべていう。