2017年2月23日木曜日

【小説】浪花相場師伝 第十九話 金融のプロ(前編)

第十九話 金融のプロ(前編)

その男は長年、地方銀行で中小企業への融資審査を行なってきた。
財務諸表すら作っていない中小企業も数多くあった。
融資さえ受けられれば、何とかなると思っている。
融資を申し込む時点で貴様らは終わっている、男は思っていた。

なぜ、融資を受けてまで商売を続けようとするのか。
融資を受けるということは、開業資金が不足していたということだ。
確かに、融資を受けて業績を伸ばす経営者はいる。
だが確率にすれば数パーセントにも満たない。

ある日のこと、男の勤める地方銀行で早期退職の募集があった。
このまま定年まで勤め上げるよりは、多い退職金が貰えるらしかった。
確かに退職金の額は早期退職の方が多いかもしれない。
だが会社員は目に見えない様々な面で、自営業より有利だ。

厚生年金と国民年金の違いは大きい。
厚生年金は会社が、自己負担分と同額を払い込んでくれる。
交通費は支給されるので、持ち出しはない。
決まった時間に会社にいるだけで、安定した収入を得ることができる。

男が定年になるのは数年先だった。
定年を迎えても、契約社員として雇用を継続してもらう方法もある。
だが契約社員になれば、今の年収より大幅にダウンする。
幸い住宅ローンの返済は終えており、ある程度の蓄えもある。

大幅に減った年収で働き続ける。
それも1つの選択肢だ、だが本当にそれでいいのか。
自分のスキルは、まだまだ若い者たちには負けない。
ならば、もっと自分を有効活用してもいいのではないか、男は思った。

結局、男は早期退職には応募しなかった。
早期退職に応じた奴は結構な人数いたらしい。
男は早期退職には応募しなかったが、独自に摸索していた。
これからの自分が歩むべき人生を。

子どもたちは既に社会人になっている。
伴侶をもらい、それぞれが幸せな家庭生活を送っている。
これからも妻との2人だけの暮らしが続くのは間違いない。
そんなある日、変わった求人広告が男の目に飛び込んできた。